第二章 〜嫉妬〜

 〜1〜

 昼前の授業が終わって体を伸ばした圭は、窓際がちょっとざわついているこ
とに気づく。
「なにかある?」
 学食へ一緒に行く友人の席に行って訊いてみる。彼は窓際の席だ。
「ああ、あの人だよ」
 圭は彼の指先を辿って、二階の窓から外を見下ろしてみる。
 あっ、と圭は短く声を漏らした。
 私服の女性が不安そうな表情で時々校舎に目を向けては、落ちつきなく歩き
回っている。何か包みを抱いて、迷っているようだ。
(……あれ、心さん……だよな)
「ファッション誌の表紙に載ってたモデルだと」
「え? ああ」
 周りを見ると、男子よりもむしろ女子の方が彼女に注目していた。
(まあ、双子だし……)
 モデルをしているのは紫の方だ。
 彼女は今週号の女性ファッション誌の表紙にいたはずだ。数年前から紫は、
自分の写真が掲載されている雑誌を圭にくれるのだ。マスターベーションのネ
タにしているとは言えないが、彼女はそんなことくらい、お見通しかもしれな
い。
「四年前のミスK大だろ」
 後ろからそんな声も聞こえる。
「票をほとんど独占したんだよ」
 それも紫の話だ。入れさせられたから、圭にも覚えがあった。圭の一票など
関係なくダントツだったのだが。水着審査の時の写真は、まだ大切に持ってい
る。
「そのとき、事務所の人にスカウトされてモデルになったってさ」
 黙って聞いていたが、いくらK大付属○校に通っているとはいえ、よく知っ
ているものだと感心する。
「お前、よく知ってるな」
「オレんとこの姉貴が、そのミスコンで屈辱的な敗北を喫したのさ」
「ゼロっすか?」
「オレも、あのヒトに入れちまったし。それで姉貴にはあとでさんざん文句言
われた」
「そりゃそうだろ」
「オレもそんときまでは姉貴ってけっこういけてると思ってたんだよ、子供心
にさ? けど、オーラが違うって言うの? 他の参加者がピンぼけする感じだ
ったんだよ。ま、実際、両隣の参加者が比較されたくないからちょっと離れて
たってこともあるけどな」
「ふーん。でも、たしかにキレーだよな。好みかもー」
「でもなぁ、なんかあんときとイメージが違う気がするんだよなぁ」
「四年も経ってるんだろ?」
 耳に入ってくる会話を聞きながら、圭はふと我に返る。
 母校とは言え、用があるのは、おそらく自分だろうと思う。
 ちょっと、と断って圭は教室を出た。

「あ、圭くん」
 圭の姿を見つけた心が、安堵の表情で駆け寄ってきた。
「心さん、なにしてるんですか?」
「あのね、お弁当作ってきたんだけど……」
 圭に持っていた包みを差し出した。
「ほら、お昼は学食でラーメンとかうどんばっかり食べてるって、前に言って
たから」
 心は不安がちの目で理由を付け足した。
「僕のためにわざわざ作ってきてくれたんですか?」
「迷惑……だったかな」
「そんなことありませんってば。遠慮なく、いただきます」
 圭はありがたさを込めた笑顔で弁当を受け取った。
「それで、え、と……」
「え、何ですか?」
「あ、いいです。なんでもないの。それじゃ、勉強とクラブ、がんばってね」
「あっ! 待って、心さん!」
 あることに気づいて、圭は心を引き留める。
「な、なに?」
「だって、それ」
 心の手の中に、もう一つ包みがあった。明らかに圭のものより小さい。中身
は女性用の弁当箱だろう。
「あ、うん……」
 圭が指さすと、心は照れたように目線を下げる。
「どこかで一緒に食べますか?」
「ほんとに?」
 笑顔が弾ける。返事はそれでわかった。
「じゃあ、どこがいいかな……」
 あまり目立たない場所の方がいいと思うのだが、普段外で食べてないだけに
思いつかない。
「私が決めてもいい?」
「あ、いいですよ」
 野球場の先にある木陰まで二人は歩く。

「あの、心さん」
 食べ終わった後、圭は何気なく訊いてみる。
「今日はどうしたんですか?」
「え、どうって?」
「今までこんなことなかったし……。何かあったんじゃないかなって」
 心は目を瞬かせて、頷いたように見えた。
「……圭くんを、紫に取られたくないから……私にできること、したかったの」
 え、と圭は思わず声を出す。聞き間違いかな、とさえ思った。だって、それ
ではまるで、圭のことを好きだと言っているように思えたあから。
 圭は言葉の確認を取ろうとするが、心はその前に自分の世界に入っていた。
ためらいつつ、相手の反応を見ずに自分が言いたいことだけを言う。
「私、紫みたいにエッチなことできないから……」
「え……」
 さっきより小さな声で早口だったが、今度ははっきりと聞きとれた。思わず
絶句する。
「じゃあ、紫さん、心さんに話し……」
 あっ、と心は顔を上げ、開いた口を押さえた。
 数秒の気まずい沈黙の後、心が両手で胸を押さえる。痛みを堪えるような仕
草だった。上目遣いで、震える声で、訊いてくる。
「ね、ねえ、圭くん。紫のこと、好きなの?」
「あ、いえ、僕は……」
 どう答えていいかわからなかった。紫のことはもちろん好きだが、今はどち
らか一方に感情が傾斜していることはないと思うのだ。二人は性格は全然違う
けれど、同じくらい惹かれている。二人とも魅力的で、好きなのだ。
「その、僕は別に紫さんと付き合ってるとか、そういうわけじゃないから……
昨日のだって、たぶん、紫さんにとっては、いたずらみたいなものだと思うし
……」
 圭はしどろもどろになる。肝要なことは何も答えられていない。言い訳にし
か聞こえないかもしれない。
(もう腹をくくった方がいいのかもしれない)
 今までは釣り合わないと思って押し殺してきた。今もそう思っている。けれ
どやはり、同級生の女子たちにまったく興味を持てないくらい、好きなのだ。
 圭は姿勢を正した。基本的に奥手なのでためらいはあったが、口にする。
「僕は……心さんも、紫さんも好きなんです。二人とも特別な人なんです」
 心は驚いたように見返してくる。
「ほんとに? 私のことも?」
「はい。おかしいかもしれないけど……」
 圭が頷くと、心は何度か深呼吸した。落ち着こうとしているはずなのに、逆
に、彼女は赤くなっていく。
「昨日、紫と、き、キスってしたの?」
「し、してませんよ!」
「だったら、し、していい?」
「な、何をですか?」
「キス……圭くんと、キス、していい?」
「あの、え?」
 心臓が激しく高鳴ってくる。たぶん、同じことを紫に言われたらここまで動
揺しないように思う。心は普段控え目であまり自分の意見を言わないから、か
えって真剣さと本気さを感じさせるのだ。
 心がゆっくりと肩を寄せてくる。
「あ、あの、震えてますよ。無理はしない方が……」
「ううん、恥ずかしいだけだから……。圭くん、目つぶってて」
「あ、はい……」
 素直に圭は目を閉じる。
「こっち、向いて……圭くん」
 震えた声の指示に従う。息づかいが間近に感じられ、その逡巡も多分に伝わ
ってきた。
 まだかなと思っていると、柔らかい感触が唇に触れた。
 その途端、勢いよく二人の間に風が流れて、圭は目を開ける。
 ばたばたと弁当箱を抱いて、心が勢いよく立ち上がるところだった。
「じゃ、じゃあ、私、帰るね!」
 目を合わせないようにして、心は校門の方へ駆けていった。
 圭は自分の唇に触れる。
 一秒にも遙かに満たない口づけ。
 ファーストキスは卵焼きの甘い味だった。


 〜2〜

「圭くん、いらっしゃい」
「お、お邪魔します」
 二人は玄関でいつものように恭しい挨拶を交わしていた。
「いい匂いですね。カレーですか?」
「う、うん。海鮮カレー」
 しかし、伝わってくる雰囲気が少し違う。
 特に心が、もう、相当に恥ずかしがっている。
 二人が互いに意識しているのを敏感に感じ取って、一人リビングにいた紫は
クスリと笑う。
(ふふ、何かあったかな?)
 鏡餅のように置いてある弁当箱。帰宅してからキッチンにつまみ食いしに行
った紫は、弁当箱に入れたおかずの残りがあることも知っている。心の行動は
容易に想像がついた。
(ま、あの様子だとキスくらいしたかな?)
 圭はいいにしても、心が高校生のような恋愛心理でいるのがおかしい。いや、
心に恋愛経験はないのだから、それ以下かもしれない。中学生級。最近の中学
生なら、初エッチした同級生と顔を合わせても、別に恥ずかしがったりはしな
いだろうけど。
 戻ってきた心は顔を真っ赤にしていた。
 紫はあらためて、姉の貴重さを実感する。長い黒髪と合わせて、大和撫子の
称号を与えてもいいくらいのものだ。

 二人の性格がここまで違うのは、五〜六歳の時に聞いた母の恋愛話が大きく
影響している。
 それまでほとんど同じ思考、性格だったのに、その話を聞いた日を境に別々
の道へ分かれたのだ。
 話を聞くきっかけは、母が高校時代の友人として、圭の両親の結婚式に招待
されたことだ。出席後、父と母の結婚のいきさつに、心も紫も興味を持った。
それは子供なら、一度は両親に訊くことだと言ってもいいだろう。
 そのときの母の話は、父と知り合う前、高校時代のことまで遡った。
「実はお母さん、負けちゃってねえ」
 母はそう前置きして話し始めた。
 圭の父と母、それに紫たちの母親はクラスメートだった。当時の圭の父、新
川悟はH学園のスター的存在だった。プロのスカウトに注目されていたし、ル
ックスも抜群。女生徒にとっては憧れの存在だった。
 そのとき、悟の彼氏に立候補した二人が、圭の母である一美と紫たちの母の
緑だ。二人は親友同士で、緑は応援団、チアリーディング部に所属し、一美は
野球部のマネージャーだった。
 告白したのは、緑が先だった。何回かデートをして、感触は悪くなかったよ
うに思えたそうだ。
 しかし、結局、交際は断られた。その数日後、緑は彼と一美が付き合い始め
たのを知った。緑の落胆ぶりは相当なものだった。親友だと思っていた一美に
悟を奪われ悔しくもあったし、悟に遊ばれていたのだとも思ったらしい。
 その後、H学園は夏の甲○園の出場を決めたが、そのときすでに緑はチア部
をやめていた。表向きは受験のため。実際、彼女は夏休みを勉学だけに注ぎ込
んだ。
 緑は大学に入学すると、両親の反対を押し切って、米国留学を決める。吹っ
切るために、違う匂いの空気を吸いたかった、というのが緑の弁。
 まさしくその留学が緑の人生に大きな影響を与える。
 商社マンだった二十六歳の康成と知り合うことになったのだ。ベタベタな二
人の恋愛話はさておき、緑は二十歳で学生結婚。大学を中退し、二十二で心と
紫を出産した。
 それから五年後。緑が悟に告白していたことを知らない一美から、結婚式の
招待状が届いた。そのとき緑は幸せだったので、遺恨無く、新川悟と一美の結
婚式に出席したわけだ。
 心と紫が一日かけてこの話を聞いたとき、インパクトがあったのは、もちろ
ん前半。
 そこまでは共通していたが、感想を話し合ったときに、感じ方が正反対だと
わかった。
 姉は恋に残酷さを感じて、恋に臆病になった。
 妹は恋に駆け引きなどの面白さを見出して、恋に積極的になった。
 これが二人の性格の分岐点。

「明日、練習試合があるんですけど……よければ見に来ませんか?」
 食事中、紫と心の顔を交互に見て圭が言う。
「え? 圭まだ一年でしょ。出番あるの?」
「三校が集まって、二試合ずつやるんですよ。僕は二試合目の先発が決まって
ます」
 へえ、と紫は相づちをうつ。実力校の中にいて一年で先発を任せられるなら、
将来を期待されているのは間違いない。
(それにしても。圭って野球については、けっこう自信家なのね)
 ポジションはピッチャー。出来不出来がもろにわかる。ぼこぼこに打たれれ
ば、立つ瀬はない。
「わ、私、お弁当持って行くね?」
 微妙に先走った心に、紫は溜息をつく。
「圭が先発の試合、何時からの予定なの?」
「あ、午後の一試合目です。午前の試合にもよりますけど、たぶん、昼食の後
で、一時くらいになると思います」
「お弁当……って、いるかな?」
「自由だから一緒に食べられますよ」
「じゃあ、作って行くね?」
「はい、楽しみにしてます」
「試合の場所は?」
「ホーム……K大付属○校の野球場です」
 なぜだか、そこで心が落ち着きを失う。
「紫さんは予定あるんですか?」
「仕事」
「そうですか……」
 圭が残念そうな顔をする。可愛い。
「私がいなくても大丈夫でしょ。他に同級生の女のコも誘ったんじゃないの?」
「誘ってません!」
「あらそう。でもチアリーディングは来るわよね?」
「みたいです」
「この時期だから、甲○園出場したときの練習ね。何校か合同の」
「紫さん、元チア部でしたよね?」
「さすがにもう踊れないけど、あれ持って行くわ」
 紫は壁に掛かったダブルバットを指した。ドラゴンズファンの母の影響で野
球観戦はそもそも好きなのだ。ちなみに、ドラゴンズは圭の父が所属していた
チームである。
「え、じゃあ来られるんですか?」
「期待を裏切るのも悪いしね。たぶん抜けられると思うわ」
 皿を空にし、スプーンを置いて、紫は立ち上がる。
「ごちそうさま。ちょっと出てくるわ。遅くなると思うから」
「あ、うん。いってらっしゃい。気をつけてね」
 紫は一度自分の部屋に戻ってから、外へ出た。
 ガレージで車に乗り込んだ。
 頭の後ろで手を組み、薄暗い車内でしばらく待機。
 性格が違っていても、紫は心の考えていることがだいたいわかるのだ。
 携帯電話を出して、つぶやく。
「お楽しみタイム、かな?」


 〜3〜

 二人きりになると、やはり昼間のことを大きく意識してしまう。
 心の視線は、キスをした圭の唇に集中する。
 圭もカレーを食べ終わっていた。彼の視線も自分の唇に向けられているよう
に感じて、恥ずかしい。けれどどこかむずがゆい甘さがある。
 二人は数分間くらい、黙って座ったままでいた。
 気まずくはなかった。
 その間で、心の中では急速に決意が固まっていく。
(今なら、今しかない……よね?)
 それから心は口を開いた。
「あのね、圭くん……」
「な、なんですか?」
「紫……が、したみたいに、して、いい?」
「えっ! そ、それって……!」
 心が言うと、圭はキスの時より遙かに大きな驚きを露わにする。
「……うん。圭くんの、お、おち×ちん、擦らせて……?」
 声に出すと、痛いくらい鼓動が早くなった。
(い、言っちゃった……)
「あの、その……」
 圭は目を彷徨わせる。
 嫌がっているような素振りに、心の胸が痛む。
「だ、だめ……なの……?」
「そうじゃないです!」
 圭は首を勢いよく横に振った。
「ただ、その……紫さんが、したからって、心さんが無理すること……ないと
思います」
「で、でもね? それで紫を好きなっちゃうこともあるかもしれないから……!」
 心は自分を鼓舞するように、勢いよく立ち上がった。
 不思議と足は震えなかった。

 心は仁王立ちしている圭のズボンを下ろした。
 続いて、ボクサータイプのブリーフに手をかけた。唾を飲んで、ずり下げて
いく。
「きゃっ!」
 突然、目の前で何かが跳ねて、心はブリーフから手を離して悲鳴を上げた。
 瞑ってしまった目を、ゆっくり開けていく。その物体が色と形を露わになる。
凄まじい衝撃を受けた心は両手を口に当てた。
(これが、圭くんのおち×ちん)
 男性器そのものを見るのは、初めてではない。父親とお風呂に入っていた頃
は、さほど怖さもなく、目にしていた。
 初めてなのは、ペニスが欲望にそそり立った状態にあるということだった。
(すごい。こ、こんなに、おおきいの……?)
 視界いっぱいに広がった青筋だったサオ。肉茎の先端で咲いた赤黒い頭。両
手を使っても包みこめないくらいの長さと太さがあるその肉の棒は、心の視線
を受けて、ときどき圭の下腹部の上で飛び跳ねている。
 歪でグロテスクな形状なのに、心惹かれる。
「さ、触る、よ?」
「はい……」
 圭の同意を得ると、心は熱の勢いに身を任せて、勃起に手を伸ばした。
 真ん中辺りにしっかりと指を絡ませると、圭が息を漏らした。もう片方の手
では先端辺りを包む。
(熱い……それに、脈打ってる……)
 心はにぎにぎと手を動かして、感触と堅さを確かめた。剥き出しになってい
る先端以外は、意外と表面の皮が動くことを知る。
(それで、しごく、っていうんだ……)
 心は肉茎を軽く握って、上下に動かし始めた。こもるような呻き声が上から
落ちてきた。
「だ、だいじょうぶ? 痛くない?」
「……は、い……気持ちいいです。もっと、強くしても、平気です」
 勇気づけられて、心はぎこちないながらも茎を握った右手を早く動かす。
「心さん……すごく、いいです。ああっ……」
(圭くん、私の手で、気持ちよくなってくれてるんだ)
 どうしたら、もっといいのか考えた。透明な液体を滲ませている亀頭の割れ
目を見て、その知識を思い出す。
「……な、舐めていい?」
「舐める、って……?」
「ふぇ、フェラチオ……って、言うんでしょ? 初めてだから、下手だと思う
けど……」
 圭の喉が動き、小さく顎が動いた。
 心は血液が充満したペニスを固定して、顔を近づける。圭は家に帰ると、シ
ャワーを浴びて汗を流すので、匂いはきつくなかった。
 ポツッと新しく膨らんだ珠を、舌ですくい取る。
「いっ、くっ……」
 敏感な部分をざらついた粘膜で擦られた圭は、自分のシャツを握り締める。
 心は舌の上の粘液を味わうと、今度は亀頭のふちを舐めた。圭の腰が震える。
男の一番敏感な場所に、自分がどれだけ強い刺激を与えているか、余裕も経験
もない心にはまだわからないのだ。
 心はできるだけ大きく口を開けた。
 赤黒い先端を頬張る。それだけで口の中がいっぱいになった。
「うあっ、心さっ……!」
「ふぐ、んむ……」
 舌の上に乗った圭の男根がさらに大きくなったような気がした。
「んっ、ん、んぐ……」
 その圧倒的な存在感に息苦しさを覚えながらも、心は圭をできるだけ深く銜
え込んでいく。嘔吐感に涙が滲んで、限界だと思ったところは、しかしまだ肉
棒の三分の一にも達していなかった。
 心は頬をすぼめ、顔を徐々に引いていった。本能的に分泌された唾液で鈍く
光る肉塊が、目の前で体積を増やしていく。
「すご、い、です……、心さんっ……」
 そして唇がエラに引っかかり、擦り上げたときだった。
「うああっ、心さんっ! イクッ、出ちゃいます! あああっ!」
 声変わり前のような甲高い悲鳴とともに、圭の腰が勢いよく突き出された。
「んぶっ、んぶううっ!?」
 腰と共に前進する肉棒が、逃げる時間を与えない速さで、ぬるぬると舌の上
を通過していく。自分の意志で含んだ倍くらいの長さが、口腔に突入してきた。
同時にペニスが膨張し、大きく飛び跳ねて、先端から熱液が噴出した。
「んんっ、んんんっ!」
 覚えのある生臭い匂いを放つ液体が、喉奥を直撃した。心は思わず逃げよう
としたが、いつの間にか後頭部を圭にしっかりと押さえられていて、できなか
った。必死に嚥下しようと喉を鳴らせるが、濃厚な精は喉の粘膜にへばりつい
てしまっていて、なかなか飲み込めない。その間も、圭の激しい射精は続いて
いて、口内に注がれる精液の量はいっこうに減る気配を見せない。心は若い精
の勢いにただただ圧倒され、圭のたくましい両腿にしがみつき、半泣きで吐精
を受け止めることしかできなかった。
「うう、あ……」
 陶酔した呻きが聞こえ、数十秒も続いた射精がようやく収まる。
 頭を解放されると、心は床に両手をついた。
「げほっ、ごほっ……うえっ……」
 咽せかえり、木目の浮いたフローリングの上に、圭が放った白濁がボタボタ
とこぼれ落ちていく。落ちた液体の中にはいくらか涙も混ざっていた。

「ごめんなさいっ、大丈夫ですか!」
 心が咳き込んでいると、背中に手が添えられた。
 青い顔をした圭が目に入って、心は無理やり微笑んだ。
「平気。びっくりしただけ」
「本当にごめんなさい、僕……だすとき、頭が真っ白になっちゃて……」
「けほっ。うん、なんとなく、わかる……」
 心は唇を拭って、唾液で薄まった精液を呑み込んだ。
 胸を押さえて、息を整えた。
「圭くん、気持ちよかった?」
「はい、すごく……。でも、すぐ、出しちゃって……恥ずかしいです」
 圭は本当に耳まで赤くしていた。慌てて出しっぱなしの性器を衣服で覆う。
 それを見て、心の方も恥ずかしくなった。それほど破廉恥な行為だったこと
に、今さらながら気付いた。舌の上に残っているいがらっぽい味を感じて、圭
がそこで射精したこともあらためて認識した。
(出るとこ、見たかったかも……)
 心は自分の着想に、首を勢いよく振り回す。
「あ、拭かないと……」
 圭が床にできた濁った水たまりを見て、ティッシュペーパーを持ってくる。
「だめ、そんなので拭いたら……」
 心はその行動を止めた。
「捨てたら匂いが……紫にばれちゃう」
 心はふきんを持ってくると丁寧に拭き取った。お湯でしっかりと染みを洗い
流す。
「あ、えと……」
 キッチンから戻ってきて、なぜか圭と向かい合うポジションに立ってしまう。
二人とも俯いて、目を合わせられない。
「あの、それじゃ、僕、失礼します……」
 圭が大きく頭を下げた。
「えと、その、ありがとうございました」
「うん、明日、応援しに行くから……」
「はい、頑張ります」
 圭が部屋から出ていって、ホッとしたような残念なような、複雑な想いが胸
をよぎった。
 なんとなく雰囲気が変わったような気がして、リビングを見回す。
「あれ?」
 心はMDコンポや小物類が並べられているメタルシェルフの上にあるものに
気付く。
「珍しい……紫、携帯忘れて……」
 手に取ろうとして、かぁっと顔が熱くなるのを感じた。
 紫は携帯電話を二つ持っている。ビジネス用と、プライベートのお遊び用。
ここにあるのは、プライベートの方だ。それが、通話状態になっていた。
「も、もしもし……?」
 耳に当てて、恐る恐る声をかける。
『姉さんも、いつの間にか大胆になったわね』
 聞こえてきたのは笑いを堪えているときの意地悪い紫の声だった。
 心は反射的に通話を切る。
「あ、あ、う……」
 手の中の携帯が、とんでもない悪魔の使いのように思えた。
(双子なのに……、どうしてこんなに違うの?)
 いつも考える疑問だ。心の思考回路を持っているように、紫は心の考えてい
ることや先の行動がわかる。心は紫の考えていることを何も理解できないのに。
それとも、それは心の錯覚なのだろうか。
 電源を切って、携帯を元通りの場所に置いた。
 紫がこの携帯で部屋の中の音を聞いていたのかすら、心にはわからない。圭
の部屋にある盗聴器だって紫が仕掛けたものだ。この部屋を盗聴するための装
置がないとも限らない。
 この携帯電話を放置していったのは、その方が心が気付きやすいから。気付
かせるためにあえて、置いていった可能性だってある。その理由はわからない
けれど。
 はあ、と大きな溜息をつく。紫が帰ってきたら、どんな顔をすればいいのだ
ろう。いや、どうしたら紫のように堂々としていられるのだろう。
(これくらい、誰だってしてるから……ってこと……かな?)
 あの液晶の向こうにいる女優だって男とセックスしているわけだから、恥ず
かしがる必要なんて最初からない。
 ない。そう。ない、はずなのだ。
 鬱になりそうなので、早く寝ることに決める。遅くなると言っていたから、
帰ってくるまでには寝られるだろう。いつもより早めに布団に入り、けれど心
はなかなか寝付けなかった。
 紫が真夜中に帰ってきても、まだ。
「早く寝ないと、寝坊するわよ」
 ドアも開けないで寝ていないことに気付かれてしまい、心はどきりとする。
「明日、応援行くんでしょ?」
「……うん」
「そういうときは、素直に圭のこと考えてればいいの。せっかく仲が発展した
んだから、いつもみたいにね」
「い、いつもみたいって!」
「だってそうでしょ」
 からかうように言われても、事実だから否定できない。
「それにさ、圭の生ち×ぽ見たなら、想像しやすいでしょ」
 何を、という言葉に出さなかった問いに対する答えを付け加えて、ドアの前
から紫の気配が遠ざかっていった。
 圭とエッチするところ。
 心は何度もその言葉を反芻した。





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