第一章 〜彼女はプールに入れない〜


  〜1〜

 9月最初の体育の授業。
 塩素臭が漂うプールサイドに、僕、三谷伊吹(みや いぶき)は制服のまま
腰を下ろしていた。
「あつぃー……」
 真上から降り注ぐ残暑の日射しが強烈で、じっとしていても汗が滲み出てく
る。
 気持ちよさそうだなぁ……。
 クラスメートたちは快適な温度の水の中を泳いでいた。もちろん授業なので
好き勝手というわけじゃない。コースに一列に並び、前が10メートル進んだ
らスタートしていく。
 泳ぎ方は自由だが強制的といった雰囲気。それでも外にいるよりはずっとい
いに違いない。少なくとも、暑さを意識する必要なんてないんだから。
 僕としたことが、水着を忘れるなんて凡ミス……というかフェイタルミステ
イク?
「やっぱ、佐藤って胸でけーよな」
「黒木のチチ、なんかしぼんでねー? 普段パット入れてんじゃねーの?」
 順番待ちの生徒の話し声。彼らの視線は右側の3コースを使っている女子た
ちに向けられている。
 この神楽ヶ丘学園のプール授業は男女合同なのだ。露出が少ないスクール水
着とはいえ、公営娯楽場と言った感じだ。
 ……でもさ、みんな同じ顔してるよなぁ。
 水泳帽をかぶらされ、髪は1つに縛るのが原則、水着のデザインは統一。そ
して、みんな眉毛がない……この授業が終われば、復活するんだろうけど。特
別な感情を抱いているか、シルエットでそれとわかるくらいの身体的特徴がな
い限り、彼女たちは名札でしか区別できない。水着さえ入れ替えれば、人物入
れ替えトリック成立だ。
 といっても、特にそのトリックを使う意味はない。考えられると言えば、好
きな相手に錯覚してもらうためにスタイル抜群の友人にバイトを頼むとか。晴
れて付き合いだして、エッチするようになったら、太ったとか言って……。
「……あつい……」
 などと思考を巡らして暑さを誤魔化そうとしても、日光は容赦ない。
「寒いのはわりと我慢できるんだけど、暑いのはだめだ……」
「……ちょっと、三谷くんさ。さっきから暑い暑いって、私まで暑苦しくなっ
てくるんだけど」
 隣に座っている柳綺(やなぎ あや)さんが睨んできた。僕と同じく制服の
ままで、見学者だ。汗とプールの水で濡れ、水色のブラがなんとはなしに透け
て見える半袖のブラウスの裾をパタパタ上下させている。
「うーん……でも暑いのは僕のせいじゃないし、心頭滅却しても涼しくはなら
ないと思うんだよね」
「それでも、わざわざ他人を暑がらせなくてもいいと思うよ」
「んー……不快にさせたなら謝るけど」
「わかってくれたなら、謝らなくていい」
 柳さんは興味なさげに前を向く。
「…………」
 柳さんとの関係は、教室の席が前後という関係。さらに言うと、前から回っ
てきたプリントが僕の手で柳さんに渡されたり、柳さんが小テストを回収する
とき、彼女の答案の上に僕の答案が重なるという関係でもある。
 一言で表すと、単なるクラスメートだ。
 まあ、単なるクラスメート以外のクラスメートは、誰でも数人くらいしかい
ないと思うけど。
 なんにしても、柳さんが言ったように『他人』よりはほんの少しだけ親しい
仲であると言って差し支えない……はず。
 個人的見解として述べさせてもらうなら、基本的に柳さんの容姿は気に入っ
ている僕だ。
 柳さんは今どき珍しい黒髪のセミロング。あらゆる場所に化粧ッ気がなくて
今風じゃないけど、端正な顔立ちといいほっそりとしたスタイルといい、美少
女と呼んでまったく問題ない。オーディションに参加すれば、書類選考は楽々
突破することうけあいだ。
 とらえどころがなく、なんとなく蔭がある表情をしていることが多いのも、
僕としてはポイント高し。まー、そうはいっても、僕の感覚が他の男子の感覚
とそんなに離れているわけではないらしく、男子からの人気はそこそこあるら
しい。ただ、たいていのクラスメートが夏休み中に交際相手をゲットしている
のに、彼女の浮いた話は聞かなかったりする。情報源が実に軽薄な男友達だか
ら、まったくあてにはならないけど。実は家が決めた婚約者がいるかもしれな
いし。
 あと僕が知っている彼女の情報は、いくつかある女子グループの1つのまと
め役であることと、クラスでトップクラスの成績であること。前述の友達によ
る推定スリーサイズ(84・58・82)くらいかな……。
 しばらく彼女の横顔を眺めていると、揺れる水面を映していた黒い瞳がこち
らを向いた。
「……なに?」
「えっ!? ええっと……その……えー……」
 僕はその目に非難が籠もっているように思えて、慌てた。肩が触れ合うくら
いの近さという、慣れない距離も災いしている感じで、思考がうまくまとまっ
てくれない。
 なにを言おうかとゴチャゴチャ考えていると、かねてよりの疑問が口から勝
手に出ていった。
「その……どうしていつも見学してるのかなーって……思って」
「…………」
 柳さんは無表情になって口をつぐむ。
 うわ、やば!
 怒りのオーラが無言の彼女の背中で渦巻いているように感じてしまい、僕は
さらに慌ててしまう。
 なに、なに、なんで?
 僕なんかまずいこと言った?
 どうしよう……。
 なにか別のこと言ったほうがいいのかな……?
「……聞きたい?」
「え……?」
 柳さんは前髪を指で弄りながら、僕の目を覗き込んできた。なぜだか、彼女
の瞳の中に意識が吸い込まれていくような錯覚を感じる。
「私がプールに入れない理由……」
「う、うん、教えてくれるなら……」
 僕は柳さんが怒っていなさそうなので安心したが、漠然とした不安を感じる。
たぶん、それはなんていうか、柳さんの得体の知れない迫力のせいだ。
「子供のころ、海で溺れたことがある。そのトラウマで水の中に入れない。そ
ういう医師の診断書を学校に提出してあるの」
「……あるって、ホントの理由は違うってこと?」
 先生方に聞かせていい話とは思えなかったため、僕は思わず小声で問い返す。
「そうよ。本当の理由、聞きたい?」
 柳さんはもったいぶったように言い、わずかに表情を変える。一見しただけ
ではわからなかったが、唇の端と目尻の形から、彼女は微笑んでいるのだと僕
は解釈した。
 しかし、その瞳の奥が、不安そうに揺れているように感じられた。
 ……気のせいかな?
 僕は心の中で首を傾げつつ、好奇心に任せて返事をする。
「聞きたい」
「……本当に知りたい?」
「うん……」
 僕はさっき生まれた不安が膨らむのを感じながら、それでも頷いた。
「それじゃあ……」
 柳さんは僕の耳元でそっと囁いてくる。
「放課後、教室に残っててよ……そのとき、教えてあげる」


  〜2〜

 ……わからないなぁ……。
 甘ったるい化粧の匂いが充満していた昼休み。水に入った生徒たちが眠気に
襲われている午後の授業。僕はその数時間、後ろの席にいる柳さんがプールに
入れない理由がなんなのか、そればかりを考えていた。
 医師の診断書があるということは、最低でもその医師も、柳さんがプールに
入らないほうがいいと認めたことになる。
 もしかしたら、診断書というのは案外簡単にもらえるのかもしれないけど、
なんの理由もなしにというわけにもいかないはず。
 実は極度のかなづちですぐに沈んでしまうとか。でも、この学園のプールは
水深120〜30センチくらいだし、柳さんは160センチはあるし、足がつ
くから、あまり理由にならない気もする。
 ……他には……。
 例えば、肌が塩素に極端に弱くて、学校のプールの水に触ると肌が溶けると
か?
 ありえねー……。
 んー……ホントに理由なんてあるのかねー?
 トラウマっていうのが、ベストマッチという感じなんだけど。
 とすると、僕を教室に残すというのが理由だったりして。
 まさか、告白!?
 ……なんてことはないか。
 僕たちと一緒にぞろぞろやってきてカツアゲを喰らうというほうが、いくぶ
ん現実的な話さなー。
 などなど考えていると、背中を叩かれる。振り向くと、柳さんが黒板を指さ
す。
「三谷くん、当たってるよ」
「うええ?」
「三谷。この問題を解けと言っているのが聞こえないのかね?」
「は、は、は、はいっ」
 黒板を見ると、僕が当たった問題以外は答えが書かれている。
「ついでに言っておくが、今は数学だ」
 僕の机には5時限目の国語の教科書が開かれたまま。
 慌てて教科書を出して、ページを開く。
「他の問題を解説している間に、答えを書いておけ」
 く、中年太りバーコード頭の独身数学教師がえらそうに……聖職の『聖』の
字のかけらもないじゃないか。いや、耳と口はあるか。
 ぶっ……。
 耳と口がない顔を想像すると不気味だなぁ。
 ……などという逆ギレっぽい不満はさておき、なになに?
 次の三角関数の値を求めよ?
 tan1125°?
 ラッキー、わかるとこじゃん……てゆーか、昨日、家でやった練習問題だか
らさ。
 僕は黒板にさらさらと解答を書いていく。
 tan1125°= tan(45°+ 360°* 3)
      = tan45°
      = 1
「ほう……」
 数学教師がつまらなそうな声を漏らす。
 予習しといてよかった。
 僕は席に戻って独り言。
 注意されてしまったので、とりあえず授業に集中することにしよう。
 うん、基本的に僕はまじめな学生なのだよ……。
 …………。
 ……………………。
 やがて終業のベルが鳴り、HRも手早く終了。
 クラスの至る所で、やっと1日が終わった、という年寄りくさい、いや、若
者らしいため息が上がる。
 ……さてと。
 普段ならトップ10に入るくらいの順位で教室を出るんだけど……。
 待機することに決める。
 どうせだし、数学と英語の宿題を終わらせておこう。冷房の効果が残ってい
る教室は外より遙かに涼しいので、図書館並に快適なのだ。
 せっせと課題に取り組んでいる間に、教室にいる生徒の数は減っていく。ま
ず半数は最初の数分で、残った半分が10分程度のうちに。
 残ったのは女子が多く、街に出る計画の打ち合わせなどなどのおしゃべりに
興じている。
 柳さんはというと、すでに教室を出ていってしまっていた。
 待っていれば、帰って来る……んだと思う。
 宿題が大方片づくころ、グループ1つが丸ごと帰り、教室の人口が一気に減
った。女子の甲高い声が消え、蛍光灯が消された暗い教室が静かになる。それ
から間もなく、僕は1人きりになってしまった。
 時計を確認すると、午後4時過ぎ。
 …………。
 ……………………。
 1人になってから15分ほど経っても、柳さんは来ない。
 だんだん不安になってきたなぁ……。
 日常の檻から非日常の檻に変質してしまったような教室。
 そこに独りぽっちでいると、世間との断絶感すら感じてしまう。
 時計が4時30分を回る……。
「……はっ! まさか!!」
 僕は思わず声を上げる。
「何分僕が待ってるか、賭けの対象にされているのではっ!?」
 なんか説得力がある仮説だぞ、これは。
「隣の教室なんかで柳さんのグループが待機してて、トトカルチョ……僕が焦
れて帰る瞬間を、固唾を飲んで見守っている……」
「……考え過ぎよ。そんなわけないって」
 柳さんは開けっ放しの後方のドアから、半分笑った声と一緒に入ってきた。


  〜3〜

「あ、そ、そうかな……」
 僕は彼女のほうを見ながら、なんとなく立ち上がってしまった。
 柳さんは微笑みながら近づいてくる。横から射してくる日光の加減か、教室
に2人きりというシチュエーションのためか、彼女は普段より大人っぽく見え、
ドキドキしてしまう。
「それとも、三谷くんからは、私がそんなことする人間に見える?」
 持っていた鞄を自分の席の上に置き、訊いてくる。
「それは……見えないけど、人の内面は見えるわけじゃないし、実際のところ
はわからないよ」
「…………」
 柳さんは相変わらず微笑んでいるが、教室の空気が凍り付いた気がした。
 うぐっ、しまった。
 一言多いと言われる性格なのだ、僕は。
「なら、その見えない部分がどうであっても、三谷くんは驚かない?」
 別に機嫌を損ねた様子ではないのでホッとする。空気が凍ったように思えた
のは、僕がそう思ったからのようだ。
「ど、どうかな……。クラスメートが人を殺しても、そんなことをする人には
見えなかった、なんてことは言わないと思うけど……でもまあ、やっぱり、驚
くのは驚くと思うよ」
「……そうね。驚くのは自然よね」
「うん……驚くけど、そういうこともあるかな、ってことだよ」
 ……って、何の話をしてるんだ?
 僕は何のために彼女を待っていたのか思い出す。
 ……思い出したんだけど……。
 冷静になって考えてみると、1時間も待つような内容だったのかが、果てし
なく疑問だ。そのうち半分くらいの時間は宿題をしていたとはいっても、そん
なこと、実はどうでもいいんじゃないか、と思ってしまう。
 ……秘密の共有を求めて、判断力を失っているのかもしれないけどね。しょ
せん人間なんて、好奇心の本質に理性って皮をかぶった動物なんだよ。
「……ということは、プールには入れない理由は、驚くようなことなんだ」
「もう1つ聞いてもいい?」
「……? どうぞ?」
「三谷くんは男女の役割についてどう思う?」
「役割って?」
「例えば、男は働いて、家事は女がするべきだ、なんて考えてたりする?」
「……ぜんぜん? 昔っから分担してやらされてるし。男女の役割とかって話
はどうでもいいかな、僕は。自分たちがどう生きて行くかの問題だしね……夫
婦別姓とかと同じでさ、社会的にも、当人たちがしたいようにしていい程度の
問題のはずだよ」
「なるほど……」
「ところで、関係あるの?」
「理由そのものには関係ないよ。話しても大丈夫かどうかって、計ってみてる
わけ」
「……答え方によっては聞けないってこと?」
 僕がそう言うと、柳さんは微かに頬を赤らめた。
「理由をね、話す前に、別の話、してもいい?」
「まだなにか?」
「付き合わない? 私たち」
「…………」
 ……はい?
 思考が停止する。
 いまなんて、と聞き返そうとして、やめる。
 もう一度言わせるような言葉じゃない。
 うん、ちゃんと聞こえていた。
 聞こえてはいたんだけど……。
 付き合うってどういうこと?
 僕と柳さんが?
 …………。
 …………。
 ……なんで?
「あのー、柳さんがそう希望する理由が全然わからないんだけど」
「このクラスが始まったときも、三谷くんが前だったよね。それからずっと、
2回も席替えがあったのに、ずっと前と後ろの関係。だから、なんていうのか
な、運命感じちゃったりしたのよ」
「……嘘っぽいんだけど」
 わざわざ否定する必要なんてないのかもしれないけど、つい、言ってしまう。
「本当。考えてみてよ。学校にいる間、ほとんどの時間で、三谷くんの背中が
視界に入ってるの。いまどういう顔してるのかなーって、想像しちゃったりし
て。けっこう気になってたのよ」
 なるほど。それならわかるかもしれない。気になってるだけで、別に好きだ
とは一言も言っていないわけだしさ。
「三谷くんが私のことをどう思ってるのかは知らないけど、嫌いじゃないなら、
付き合ってみない?」
「…………」
 僕が何の取り柄もない普通の学生であることを考慮すると四次元ポケット並
に謎だったりするけど、外見やらにこだわるのは子供の恋愛だとするのなら、
柳さんがとりあえず僕を選んだというのも疑問ではない……のか?
 僕としては、クラスの女子の中で一番好きなのはたぶん柳さんなわけで、お
試しにしろ何にしろ、付き合ってみることに不満があるわけじゃない。
 気になっているのは、うまい話には裏がある、なんていう騙されやすい人間
の経験から生まれた言葉。こういう状況の場合、煮え切らない奴、みたいな評
価をされるに違いない思考ではあるんだけど……どうしよう?
「えーと……付き合ったら、プールには入れない理由を教えてくれるってこと?」
「そうなるわ。安い買い物よね」
「……そうなのかな……」
 そりゃ、クラスの中で1、2くらいの優等生の柳さんが実は遊び人だった、
なんて可能性もないわけじゃないんだけど。付き合うだけなら、2人でも3人
でも10人同時でもできるわけだし。
 普段からあまり表情を動かさない柳さんだけれど、真剣だという思いは伝わ
ってくるから、『安い』なんて言葉は茶化して使っているだけという可能性が
高い。
 それに彼女の言うとおりで、安いことはたしかなのだ。柳さんと僕が付き合
って、僕が受ける損害ははっきり言って、思いつかない。せいぜい他の男子か
らやっかみの視線を受ける程度。可能性としてはトイレに呼びだされてリンチ
されるなんてことも考えられるけど、そんなことをするような評判の悪い生徒
がこの学園にいるという話は聞かない。だいたい、そんなの、いつの時代の話
だよって感じだし。
 お金は見た目も実質も平均以上に持ち合わせていないから、貢がされる危険
性も皆無。
 とすると、もはや、僕たちの交際を阻む障害はない?
 待てよ。
「もしかして、家が『や』のつく職業の人で、柳さんの背中にも入れ墨がっ…
…!?」
「……失礼ね。両親はごく普通のサラリーマンよ。共働きのね。家族構成は両
親とあと、姉が1人」
 柳さんはちょっと呆れたような顔をした。
「三谷くんて、けっこう妄想癖ある?」
「は、はは……」
 僕は乾いた笑いを浮かべる。
 柳さんは真顔に戻ると、指を1本立てた。
「1週間でいいから……付き合ってみようよ。うまくいったら、正式に付き合
うってことにして」
 これ以上ぐだぐだ言うまい。僕もこれでも男だしさ。細かいことにこだわる
のは、悪癖とは言わないけど、時と場合によりけりってもんだ。
「……わかった、それでいいよ」
 僕の答えを聞くと、柳さんは胸に手を当てると、息をゆっくり吐きながら肩
を下げた。
 …………?
 力入ってたのかな?
「とりあえずよかった、と思って」
 柳さんは僕の訝しげな視線に気づくと、控え目に微笑んだ。
「告白するのも、付き合うのも、初めてだから……私」
「え?」
「緊張して緊張して……胸が破裂しそうだった」
「ぜんぜんそうは見えなかったけど……」
「なら、もしかしたら、これからのことを考えて、ドキドキしちゃってるのか
も」
 これから?
 最初の1週間で、そんなに刺激的な展開があるのだろうか……。
 っていうか、お試しでも1週間って短くないかな?
 週休2日でも、5日は学校に来て、帰宅時間が合うならそれだけの回数を一
緒に帰ることはできる。もちろん、学校にいる間も話せる。休日だって会おう
と思えば簡単に会えるさ。1日のリズムを支配する学校も仕事とは呼ばずに遊
びの場と考えているような学生の僕らにとっては、7日は決して短い時間とは
言えない。
 さりとて、たかが1週間……7日……168時間だ。その3分の1は寝てる
として、112時間。1日5時間授業があるから、25を引いて、87時間。
毎日の雑務を1時間として、残りは、目一杯ギリギリ最大で80時間。
 ……ま、同棲してれば話は別だろーけどさ、クラスメートの関係だった男女
が付き合いだして、その相性というか、うまくいくかいかないかを判断する時
間としては短すぎないかってことだよ。
 文字だけの関係から付き合ったりする今日日ではそれが普通なのか……?
 ABCと毎日進んでいけば、3日でオーケーってこと……?
 ……って、なに考えてるんだ僕。
 それより、付き合うって、具体的には何することさ?
 パッと思い浮かばない僕って……もしかしてやばいかも?
 ……柳さんの言葉の真実はさておき、僕だって付き合うのは初めてなんだよ
ね。
 僕にとって、恋愛は必要じゃなかったから。恋愛、というなら、今でもそう
だけど。
 まあいいや。
 あとで調べてみよう。
 嫌われて得することなんて、滅多にないわけだし。
「……って、あれ?」
 ふと気づくと、さっきまで目の前にいた柳さんがいなくなっていた。
 ま、まさか……幽霊!?
 いや、あり得る。
 およそ現実離れした、意味不明な展開が続きすぎた。
 あるいは、僕の願望が脳内にありもしない現実を……。
「……って、いるじゃん」
 柳さんは、閉じきられた窓から、空を見上げていた。


  〜4〜

 なんだ……移動しただけか。
 ビックリさせないで欲しいよな、まったく。
 って、僕が勝手に驚いてただけか。
 ……なにしてんのかな?
 空を見て、考え事?
 僕はなんとなく彼女に近寄っていく。
 気配を感じたのか、柳さんが振り返った。
 転落防止用の手すりに寄り掛かって、僕を見る。
 どこか秘めたモノを感じさせ、憂いを帯びた表情。それは普段の柳さんと同
じ表情だけれど、告白に成功した少女が見せる顔には見えなかった。
 思い切り喜ばれても困るけど……柳さんて、僕に何を期待してるんだ?
「……誰かに強制されてるとか?」
「意味わからないって、それ」
 柳さんの顔が苦笑に変わる。まあそうは言っても、たぶん彼女のことだから、
僕が何を考えてそんなことを言ったのか、想像はついてるんだろうけどさ。
「うん、でもごめん。彼の前で暗い顔してるのはよくないよね」
「……まあ、僕に関係ない理由だったならいいけどさ」
「残念ながら、関係ないとはいえない」
「うえっ!?」
 ちょっと待て。
 僕は慌てて日頃の行いを思い返す。
 後を引くほどに彼女を不快にさせたことなんてあったか!?
 強いて言えば、プリントを回すとき、路上のティッシュ配りと同レベルの無
感情さで渡していたくらいのもんだ。
 ……笑顔で渡すべきだったか?
 それはそれで嫌われそうだ。小テストの多いこと多いこと。笑ってたら、教
師の回しモンかい、って感じだよ。
 そうすると残りは……。
 列を班にしてやった家庭の料理実習?
 みそ汁が目を切ってる間に沸騰してて、怒られた記憶があるけど……。
「あはは、私の心の問題なんだって。いまここにいるのが三谷くんだから、関
わりがあるって言っただけで……三谷くんが何かしたとかそういうわけじゃな
いよ」
「それってさ、僕じゃなくても、誰でもいいってこと?」
「宝くじって、外れたら、どうしてがっかりするかわかる?」
 話がいきなり飛ぶ。
「そうだね……当たらなかったから」
 ……ひねりも何もないよな。底が知れる。
「正解。当たり前の話。でも、どうして当たらないから残念なの?」
「当たる可能性があったから?」
「そうよ。紙のように薄くても、可能性があるから、外れたときに、がっかり
するの」
「えーと、じゃあ、僕には薄くても可能性があるってことかな?」
「私はそう思ってる」
「他の人は可能性ゼロ?」
「ゼロは論理的にあり得ないけど、君より遙かに下かなって思う」
 なんとなくだけど、柳さんは満足そうに微笑った。
「一口に付き合うって言っても、その人たちによって、色々形があるよね」
「そりゃあ、まあ」
「どっちがリードするのかなんて、ありふれてるし……極端な例で言ったら、
同性同士の交際なんかもある……」
「そうだね……。それは、もしかして、その形について、何か希望があるって
ことなわけ?」
「三谷くんが嫌ならそれまでって話」
「その可能性?」
「そういうことよ」
 ……僕にしかない特殊性ってことか……。
 そんなもんないってことくらい、自分がよくわかってるんだけどなぁ……。
「ところでさ、その関係が終わるかもしれない希望を聞く前に、プールには入
れない謎を、交際してるいまの間に教えてもらいたいんだけど」
「……同じよ」
 柳さんはポツッと呟く。
「どっちも、同じ話よ」
 そうなのか、と反芻した後、そうなんだろうなぁ……となぜか納得する僕。
そんな重要な話がぽこぽこ転がっていたら困るしさ。
「こっちきて、座ってくれる?」
「あ、わかった……」
 僕は彼女の近くにある机に腰掛ける。
「違うよ。そこじゃなくて、床に」
「へ?」
「だから、ここらへん」
 柳さんが指したのは、彼女自身の足下。
 てっきり、小声で話すから近づけ、の意味だと思ったんだけど……。
「こう……?」
 僕は膝を曲げて、彼女を見上げる。スラリと伸びた足とスカートのヒダの存
在感は感じるけど、下着はギリギリ見えなかった……それは僕の座高が彼女の
足よりあるというそれだけの事実だけど。ついでに言うなら、膝上10センチ
くらいと、柳さんのスカートは控え目な長さ。その中身はそう簡単に拝めない
だろう。
 ……って、まじめな話になるはずなのに、アホか僕。
「それから、どうすればいいわけ……?」
 彼女が何をしたいのか、求めているのか、僕にはわからなかった。
 見ようによっては、坊主からお説教を受ける修行僧。
 いきなりしばかれたらどうしよう……。
 などと不安に思って見上げると、柳さんは複雑な顔をしていた。
 恥ずかしがっているような、不安そうな、それでいてどこか高ぶっているよ
うな。頬はピンク色に上気しているのに、唇は緊張に強ばっている。
「……これがね、理由……」
 柳さんは喉を上下させると、スカートの裾を両手で掴んだ。
「へ……?」
 一瞬、柳さんの行動の意味がわからずに首を傾げる。
 柳さんはそんな僕を見下ろしながら、自らスカートを捲っていった。
 え……? え……? えええ……?
 白い内股が露わになり、黒い恥毛が目に飛び込んできた。
 は、はい!? 柳さん、下着穿いてないっ!?
 知覚が加速したのか、柳さんがそれほど少しずつ動かしているのか、その映
像はコマ送りのスローモーションで進んでいく。
 淡い色調の秘裂もわずかに見え、鼓動が高鳴っていく。
 だって、生まれて初めて、女性の秘部を生で目にしているんだから、動揺す
るなというほうが無理。
 僕は柳さんが何をしているのか、まったく理解できないでいた。
 だってさ、いきなり、交際を始めた相手に、こんなことするか……?
 いや、いまはプールには入れない理由のほう?
 そんな思考をした数秒後、淫靡な光景がまるで一転する。
 ……? え、えええええええええっ!?
 声にならない叫び声が脳裏で鳴り響き、僕の心臓が止まった。


  〜5〜

 心臓が止まった。
 その表現は、まったく大げさじゃなかった。
 いま僕が目にしている光景は、人生の中で最大の衝撃と呼んで間違いなかっ
た。
 ショック性という点では、自分がどうにかなる以外、身内が事故で死んだと
きよりも、もしかすると大きいかもしれない。
 止まったかと思った心臓は、現実には、止まるどころか異様な数値で脈打っ
ている。まあ、オーバーヒートして止まる可能性はあるかな、これは。
 僕は柳さんの股間を、魅入られるように凝視したままだった。人は衝撃的な
光景を目にしたとき、そこから視線を背けることができないようにできている
のかもしれない。そう思わせるくらい、僕の顔や視線は、1ミリたりとも動い
ていなかったんだ。
 それ自体は、珍しくないモノ。
 僕たち男なら、当然見慣れているモノだ。
 ただ、それが柳さんにあるというのが、不可思議で、驚愕の的なのだ。
 僕の視界の中心、柳さんの股間にあったのは、つまり、男性器だった。
 柳さんの股間から、巨大な、少なくとも僕よりは確実に大きいペニスが生え
ているのだ。
 柳さんって男なのか……と思うが、すぐにそれは否定される。男にしてはあ
るはずのモノ……根本からぶら下がっている袋がなかった。
 冷静に観察してみると、女性器の頭のほう、クリトリスがある辺りから生え
ていた。男女の分岐が完璧ではなく、女性でありながら、そこがペニスとして
発達してしまったのだろう。
「これがね、私がプールには入れない理由……」
「なるほど……」
 僕は反射的に頷く。
 確かに、これはもう、完膚無きまでに納得せざるを得なかった。
 常に勃起しているかはともかくとして、こんなモノを持っていては、水着を
着てプールには入れない。大事というか、まずいことにはなる……。
「…………」
「どうして私はこうなんだろうって、思うことはあるよ」
 僕が黙っていると、柳さんはスカートを握り締めたまま、口を開いた。その
表情からは先程までの緊張と恐怖が消えている。まー、だいたい、そんなもん
だろうと思う。秘密なんてのは、話す寸前が、一番厄介。いったん話した後は、
どうにでもなれ、っていうと、言葉が悪いけど……。
「どうして小さいころに切らなかったのかな……?」
「第二次性徴とかで、大きくなったから……」
 ……謎だけど、そういうこともあるのかもしれない。男の場合、だいたい、
普通の成長。体が大きくなった分、ペニスも大きくなる、とそんな感じだと思
うけど。
「……でもね、誤解しないで。私はこれ、嫌いじゃないの」
「そうなんだ」
 そりゃぁ、嫌いなら、どうにかしたらいいだけの話。付けるよりは取る方が、
きっと簡単だ。
「自分の体の中でも気に入ってるところの1つなのよ。だからといって、他人
に気に入ってもらえるかというと、そういうわけにもいかないと思うの。こう
やって見せてるの、初めてだから、確信はないけど」
「まあ……どう考えても、特殊だからね……」
「恋愛に興味が出てくると、これを見せて嫌われるなんてことも想像しちゃっ
て。それはとても嫌だけど、しかたない話なのよね。三谷くんが言うように、
特殊なのは私もわかってるから……」
「…………」
「私は女だけど、ただ、これの影響なのかな……私に女らしいって言われる役
割を求めてる男とは付き合えないって、今はそう思ってるの」
 核心に入った感じだ。
「でも『普通の形』に興味がないだけで、恋愛はしたいと思ってる」
「……ちなみに、その普通じゃない形って、どういう形になるわけ……?」
「男と女の役割が変わることだってあるよね?」
「え、SM……女王と奴隷……とか、ってこと……?」
「セックスで言うなら、快楽を得るのに、男が入れて、女が入れられる形だけ
とは限らないってこと。これを持ってる私は入れる側にいたいの。その相手は、
私は女だから、男がいい……」
「……わがままだね……」
「そうよ。これは私のわがまま。でも真実……」
「抑えて、偽って、我慢するよりは、そのほうがいいかもね」
「でも勘違いしないで。私は、自分だけが気持ちよければいいなんて思ってな
いから。三谷くんだって気持ちよくしてあげたいし、三谷くんのあれにだって
興味あるよ」
「そ、そう?」
「自分のとどれくらい違うんだろうとか、どんな味がするんだろう、って。き
っとこういうのって、好奇心もあるけど、自分が持ってるせいだと思う」
 ふわりと、手から離れたスカートが、柳さんのペニスを覆い隠した。
 なんとなくだけど、緊張感から解放された気がした。肩から力が抜けていく
のがわかる。
 僕は痺れた足を気にしながら立ち上がった。
「これからどうする? 私はもちろん付き合っていたいけど、それは合意がい
ることだから……決めるのは、三谷くん。だめなら、これでお別れ」
「1週間もいらなかったね」
「……だって、1日って言ったら、さすがに、ちょっと変、って思うでしょ…
…?」
「そうだね」
 ……柳さんが僕を選んだのは、たぶん、受け入れてもらえそうと思ったから
じゃなくて、断られても大丈夫そうだったからじゃないかな?
 少なくとも、口が軽いような人間には、秘密にしておくべき話だと思う。ウ
ワサが流れれば、彼女はきっと傷つくし、この学校にもいられなくなる。転校
は平気でも、そのときの柳さんの心には傷が残っているに違いないんだから…
…。
 僕の場合、口が堅い、と評価されたわけだ。なにせ、思考の9割は言葉にな
らず、彼方へと消えていく人格な上に、話すべき友達が少ない。
 うん、強烈に納得。
 見事な人選。
 なんてことを感心してる場合じゃなくて、早急に解答しなければいけない重
要事項が目の前にあるんだよなぁ。
 ……どうしよう。
 柳さんと付き合い続けるかどうかが、主題だ。
 今のところ、僕は恋愛をしたいとは思わない。これは、あくまで、今のとこ
ろ。形だけでも交際を続ければ、恋愛したくなるかもしれない。すなわち、柳
さんのことを本当の意味で好きになるかもしれない。そうなった場合、秘密を
知った上でという点で、柳さんの秘密は障害にならなくなると思う。
 現時点で柳さんのことは、好きか嫌いかで言えば、僕は間違いなく好意を持
っている。今日初めて知ったところも含めて。かっこいいとも思うし、かわい
いとも思う。柳さんほど魅力的な女性に交際を申し込まれるのは、今日が最初
で最後かもしれないな……はは。
 柳さんは普通の男女関係を望んでない。そこに発展するまで交際が続くかど
うかは未知数かも。ことがそこまで及んだとして……何が起きるかは僕にはわ
からない。僕は、いたってノーマルだから。その点、男女関係について既成概
念が薄いともいえるから、もしかしたら、あっさり色が変わってしまうかも。
異性との肉体関係強くを望んだことがないから、大いにあり得る……かな。
 以上、破棄される9割の思考。
「えーとさ、重要なところだけ言うと……」
「聞かせて」
「男のだったら嫌だって思うけど、柳さんのだったら見てても嫌だとはあんま
り思わない」
「……それ、重要?」
「重要じゃないかな?」
「意外と誠意あるタイプね、三谷くんは」
「……どこらへんが?」
「『とりあえず普通の形でなら』……こういうのだったら、言われるかもって
思ってた」
「それは望まないんだよね?」
「ええ、そうよ」
「だったら、言っても意味ないと思うけど」
「思わない人もいるってこと。たぶん、自分勝手な人。それを言うなら、私も
自分勝手な人間だけど。だから、三谷くんのそういうところ、私、けっこう好
き」
「…………」
 面と向かって好きと言われたのは、初めてだった。
 ……けっこうドキドキする……。
「それじゃあ、誰でもよかったわけじゃないってこと?」
「いつ私がそんなこと言ったのよ。勝手に自己完結しないでくれる?」
「……うん、ごめん、悪い癖だ」
「私、三谷くんを選んだ理由ちゃんと言ったと思うんだけど」
 運命?
 名字で決まる席順は置いておくにしても、たかだか、1600分の1くらい。
運命と呼ぶには大きすぎる数値だと思う。まあ、宇宙レベルの偶然から辿って
いけば、この世の出来事は全部運命と呼べるだろうけどさ。
 僕らは1人1人が運命を背負ってるんだ。遺伝子が性格に影響を及ぼすパー
センテージは無視できない。となると、僕らの性格がこの世界に生じたのは、
2の遺伝子数乗分の1の確率。単純に言えば、過去の人類すべてを見渡して、
自分と同じ遺伝子配列を持つ人間が生まれていた確率は、限りなくゼロに近い
ってことさ。僕らはそれぞれが唯一無二の個体なんだ。世界で活躍する天才も、
僕ら凡人も等しく……その認識が、僕みたいな凡人が自信を持って生きるため
の支えになるってわけさ。
 あー、だめだだめだ。自分で悪い癖だって言ってるじゃん。油断すると、思
考がすぐに話と関係ない方向へ飛んでくんだよな……。
「ま、いっか。人知れず僕が好かれてたとすれば、僕にとっては嬉しいことだ
し……ストーカーじゃなければオッケー」
「それは同感……行動しないファンくらいの薄さの好意なら、当人に何も影響
はないから」
「もしか……」
「もしかして……」
 僕と柳さんの声が重なった。
「柳さんからどうぞ」
「私たち、実はそこそこ相性いいんじゃない?」
「僕もそう思った……星占いくらいの根拠しかないけど」
「似てるんじゃないの。性格や思考そのものじゃなくて、その構造が」
「そこに積み重なったのが違うモノだった、ってことかな。僕の容量と速度は、
たぶん柳さんの半分くらいだと思うけどさ」
「そうは思わないけれど」
「そうだよ。当の僕が言うんだから、間違いない」
「三谷くんは自分の性能は知ってても、私のそれは正確には知らないでしょ?
 『当』に私が入ってないんだから、正しいとは言えないわ」
「ほらね」
「いいわ。本題に戻る」
 柳さんは小さく肩をすくめた。
 せめて在学中は、彼女の思考に触れていられればいいのに、と僕は思う。
 僕は案外簡単に、柳さんのことを好きになってしまうかもしれない……そん
な予感があった。
「さっきの、嫌じゃないって言葉……本当だって思っていいの?」
「うん……」
 僕が小さく頷くと、柳さんが微笑んだ。
 通常の自分を取り戻しているようなその表情は、僕が見た柳さんの中で、一
番明るく、魅力的に感じられた。
 柳さんは近くの机に腰掛けると、数十センチの至近距離から、僕を見上げて
きた。
「だったら……証拠を見せて」
「……え?」
「嫌じゃないなら、私のに、触れるよね?」
 柳さんは座ったままスカートを捲り、いまだ勃起を続けているそれを露わに
した。


  〜6〜

「嫌だったら、無理しないで……帰って」
 柳さんは僕をじっと見つめている。
 冷房の影響が消え始めた教室は、外の熱気を取り戻しつつあった。
 授業終了時と比べると、5℃くらいは上昇しているかもしれない。
 そのせいか、はたまた別の理由があるのか、僕の全身は火照り、表皮に汗が
滲んでくるのを感じていた。それなのに、僕の体は凍り付いてしまったかのよ
うに動かない。
 触る……。
 僕が、柳さんのを?
 柳さんの言葉を反芻しながら、僕は赤黒い亀頭部を凝視していた。
 男性のモノと同じく醜悪なデザイン。
 いや、日本人男性の平均サイズを軽く上回り、見事な傘が張っているために、
柳さんのモノは一際グロテスクな形状をしているように見えた。けど、それが
柳さんのような、いわゆる美少女の持ち物だと思うと、不思議な感じがしてな
らない。悪魔のような姿でありながら、神聖さすら漂わせている。
 僕は生唾を飲み込んだ。
 触るのが嫌というより、むしろ畏れ多い。
 だってさ、考えてみれば、男性器の形状をしているというだけで、そこは紛
れもなく女性の一部。黒々とした恥毛に囲まれた、秘所と呼んで差し支えない
器官なんだから。つきあい始めて、1時間未満なのに、という抵抗感があるわ
けで。
「どうするの……?」
 柳さんの声に、僕は動いた。
 手を伸ばせば届く距離なんだけど、あえて横に回り込むような形で膝をつく。
 すると、本当に目の前で、柳さんの腿の向こうで、ペニスが激しく脈打って
いるのが見えた。
 なぜか、僕の股間もズボンの中で膨張していた。女のコの白い下腹部が丸見
えになっているんだから、当たり前か。
「じゃ、じゃあ……触るよ?」
「…………」
 僕のちょっと掠れた声に、柳さんは無言で頷く。
 さすがの彼女も、緊張しているらしい。柳さんにとって、そこを異性に触ら
れるのは、性器を触られることと同じはずだから、当然なんだけど。
 そして、緊張しているのと同じくらい興奮しているらしく、柳さんの目には、
情欲の火が灯っていた。期待感からか、開いたままになっている桜色の唇から、
荒い吐息が漏れてくるのが聞こえた。僕もたぶん、女のコにあそこ触られるこ
とになったら、そんなふうになるんだろうな……。
 僕は、ビクビクと揺れている肉竿にそっと手を伸ばした。
「あ、ああ……ひああッ!」
 指先がちょこっと触れただけで、柳さんはビクンッと背中を震わせた。スカー
トから離した左手をテーブルに置き、倒れないように体を支える。
「だ、大丈夫?」
 あまりの反応に僕のほうが戸惑ってしまった。
「……え、ええ。もっと、触って、三谷くん……」
 切なげな声に、僕はいったん離した手を柳さんの肉棒に巻き付けた。
「くぁぁっ! あっ、ああ……ふぁ……み、三谷くんの手が……私のに触って
る……ん、うぅぅ……」
 柳さんは背中を丸め、もじもじと両脚を擦り合わせる。
「はぁ、はぁ……触られてる、だけで……こ、こんなに、いいなんて……」
「熱い、ね……それに、すごく脈打ってる……」
 ペニスを通じて、柳さんの鼓動が聞こえてきた。心拍数150とか60くら
いはありそうだ……僕もだけど。
 うーん……それにしても、見れば見るほど、そっくりだ……。
 玉袋がついていないことを除いたら、完全に男性器そのものだった。裂けた
尿道口も、赤黒い亀頭の色も、竿の感触も、皮の伸縮性も、すべてが自分のモ
ノとたぶる。最も大きな違いは、男も羨む大きさってことくらいなもの。
「どうする……?」
「三谷くんが、いつもしてるみたいに、して……」
「わ、わかった……」
 頷いて、ゆっくり目に握った手を上下に動かした。
「あはぁぁっ! はううっ……ふぅぅ……!」
 柳さんはスカートの裾を握り締め、顎を跳ね上げた。柳さんのしっとりとし
た白い首筋が艶めかしく、僕の肉茎もズボンの中で飛び跳ねる。
 そんなにいいんだ……。
 表皮だけを動かすくらいの力加減でしごいていく。
「ああんっ、ん……はぅぅっ、いい……三谷く……んっ……!」
 熱っぽく、生々しい喘ぎ声が上から降ってくる。僕が触れているのがペニス
の形をしているというだけで、女のコが感じている姿はすごくエッチだった。
 僕自身が興奮して、ペニスを握る手に、つい力がこもってしまう。
「ひああぁっ!」
 肉竿を圧迫された柳さんが悲鳴を上げる。紺色のソックスに包まれた脚がガ
クガクと震えていた。
「それじゃ……んくっ……つ、強すぎ……るよ……!」
「ご、ごめん……」
 すごく敏感なんだな、柳さんのは……。
 それとも他人の手に触られてるからなのかな?
「これくらい……?」
「かふっ……そ、それくらいで……じゅうぶん……」
 男の僕としてはもどかしくなるくらいの力と速さで、さっきより大きくなっ
たような気がする柳さんのペニスをしごき上げていく。
「うぅ……はぁぁっ……んんっ……」
 柳さんの目は閉じられていて、股間の快感に集中していることが窺えた。僕
は空いている左手で柳さんを触りたくなるのをグッと堪え、肉棒を擦り続ける。
 しばらくすると、先端の割れ目から、プクッと透明な汁が浮かんだ。
「これ……我慢汁?」
「はぅ……ふ……そうなの……かな……?」
 紅く染まった彼女の顔に羞恥の色が浮かぶ。
「み、三谷くんも……出るの……?」
「うん……出てくると、もうそんなに保たない……」
「私も……すぐ……ひゃぁぁっ……!?」
 僕は、どんどん溢れてくる先走りの滴を亀頭に塗り拡げながら、エラや裏筋
に指を這わせる。
「はぁっ……くぅ……あぁんっ……!」
 わずかな力で圧迫するたびに、柳さんは身を捩らせ、激しく反応した。
 次第に濃くなり、僕たちを包んでいく、柳さんの匂い。本能を直接揺さぶる
ような、甘くて酸っぱい性の香りに頭がくらくらしてくる。トランクスがじわ
りと滲みた感触があり、僕のペニスからも我慢汁が出ているのが感じられた。
「はぁ、う……ああぅっ……! んんっ……」
 青筋だった幹をしごいていると、垂れてきた先走りで、ヌチャヌチャと音が
立ち始めた。
「あああっ、三谷……くん……はあっ……わ、私、もうっ……!」
「……い、イクの?」
「ん……そうっ……イク……イっちゃうっ……!」
 僕はちょっと力を込めて、上下へ大きく動かした。
「ひぃっ! だ、だめっ、三谷くん……強い、よっ……ひっ、はぁぁぁっ!」
 ビクビクと肉棒がせわしなく痙攣し、快感の限界地点へとノンストップで上
っていく。
「ふあっ! はああっ! あぁぁっ!」
 柳さんが短い喘ぎを上げ、手の中の怒張がさらに力強く反り返る。
 あ、もう……すぐ……。
 射精の前兆動作に、僕はくせで手の動きを速めてしまう。
「きゃはぁぁぁぁ! いっ……ちゃうぅぅっ! ひああああああぁぁぁーーーー
っ!」
 柳さんは髪を振り乱し、悲鳴のような声を上げて仰け反った。
 強烈な絶頂の脈動と共に、肉棒の中を何かが走り抜けていく衝撃が手のひら
に伝わってくる。
「あ……」
 柳さんが腰を突き上げ、先端の裂け目から、透明な液体が勢いよく噴き上が
った。
 弧を描いた飛沫は机を1つ飛び越えて、ボタボタと床や机に降り注ぐ。
「はああぁぁっ! あああっ!」
 柳さんは体を大きく捩りながら、吐瀉を続けた。彼女の肉棒は、汁を射出す
る度、手が弾かれそうになるくらいに膨らむ。
「くはあっ! ふっ……くううぅっ……ううぅーーーっ……!」
 す、すごい……まだ、出てる……。
「はひっ! はあぁぁ、くっ……ふうう!」
 柳さんの射精は見たことがないくらい、長かった。もしかすると、女の絶頂
も同時に柳さんの全身を震わせていたのかもしれない。
 僕はその衝撃的な光景を見ながら、何も考えられず、射精のしゃくりが収ま
るまでただ手を動かしていた。
「ひぁ……あ……あああ……」
 痙攣を続けていた柳さんのペニスも、やがてその動きが落ち着いていく。
 液体が飛ぶ距離も短くなっていた。
「ああぅ……ぅ……」
 残滓がトロトロと亀頭を滑り、僕が握っているところまで落ちてきた。
 こんなに、熱い……んだ……。
 親指の上に広がる透明な汁から、柳さんの熱が伝わってきた。
「ふあぁぁぁ……はぁっ、はぁっ……」
 柳さんは天井に向けて荒い息を繰り返していた……。



  〜7〜

「はあ、ふぅ……私、三谷くんの手で……イっちゃった……」
 柳さんの汗ばんだ全身から、力が抜けた。
 僕は固まっていた手を、勢いが衰え始めている肉棒から外す。
 ……これって、なんだろう……。
 親指と人差し指で光っている汁の匂いを嗅いでみる。
 匂いはあまりない。あえていうなら、行為中にずっと鼻を満たしていた甘酸
っぱい匂い……。
 先走りが大量に出たのか、それか、膣に分泌されるべき愛液なのかもしれな
いけど、よくわからなかった。
「あ、あんまり見ないでよ……恥ずかしいから……」
 僕が自分の手を見ていると、ふわりとハンカチらしき布がそこに被せられた。
柳さんは、手早く僕の手からその液体を拭き取っていく。
 気づくと、彼女はスカートでペニスを覆い隠していた。
 ……そもそも服ってそういうもんなんだけどさ。
 それに、もしかして、冬服用のスカートかな?
 もともと襞が覆いタイプのスカートで、冬用はけっこう生地が分厚いから、
ペニスがそこにあるなんて外からはわからなかった。普通は誰も想像しないだ
ろうけど。
 僕はちょっと頭を掻いて、顔を動かした。
 見事なまでに、机や床に、その液体が飛び散っている。
「ほっとくわけにもいかないよね……」
「そ、そうね……」
 柳さんは、今度はティッシュペーパーを出して、いそいそと痕跡を消してい
く。
 しかし、足りそうにない。
「あ、あれでいいかな?」
 僕は誰かが鼻紙がわりに持ってきたトイレットペーパーをロッカーの上に見
つける。
 小走りに取って、持っていく。
「ありがと」
「……って、なに……?」
 トイレットペーパーを机に置いた柳さんに両肩を掴まれた。
「終わるまでこっち見ないで」
 反転させられてしまう。
 ……まあ、わからないでもないけど。
 女のコ部屋に呼ぶときに、丸まったティッシュペーパーを残しておくのは、
ちょっと、って感じだし。
 再生紙印の硬めトイレットペーパーで机や床をガサガサと拭く音が聞こえて
くる。
 僕はその辺のイスを引っぱり出して腰掛けた。
 柳さんのモノを握っていた自分の手を眺める。
 ……まだちょっとべたついてる、かな。
 アイスが垂れ落ちたときのように、つい指を舐めてしまう。
 微かな塩味。
 だけど、やっぱり、そんなに味はしない。
 ……むしろこれは、僕の汗の味?
 いや、汗自体にはそもそも匂いなんかなくて、いやいや、塩分は含まれてる
んだから、塩味はあるよね。匂いは味の大部分を占めるとかいう話だけど、匂
いだけが味なわけじゃないってわけかな、うん。
 などと、思考を変な方向へ持っていっても……だめだこれは。
「ごめんね……私ばっかり気持ちよくなって」
「はえっ? あ……うん、いいよ、別に……」
 申し訳なさそうな声に、僕は曖昧に頷く。
 思い出させるようなことは言わないでほしいんだけど。
 なにしろ、僕のペニスはまだ勃起したまま。当然というか発射していないし、
興奮してたせいで明らかに収まりがついていない。家に帰ったら抜かないと、
と思えるくらいに。ペニスはともかくとしても、女のコの大事なところ生で見
たのなんて初めてだし……こんな僕でもかなり来てるわけさ。
 ……人によれば、ここで襲っちゃう人もいるんだろうなぁ。
 それが自分勝手な人間ってことかもしれない。
「三谷くん、ビニール袋持ってない?」
「へ? ビニール袋?」
「ゴミ、持って帰りたいから……」
 教室のゴミ箱へ残していくのは嫌なのか……。
「持ってないけど……トイレに流しちゃったら?」
「無理……だと思う。めちゃくちゃに丸めちゃったから……」
「そっか。じゃあ、コンビニで飲み物でも買ってこようか? 僕もちょっと喉
乾いたし……」
「なら、お願い」
「何でもいい?」
「スポーツドリンクならどれでも」
「わかった」
 僕は鞄の中から財布を出して、学校から徒歩1分のコンビニへ向かった。


  〜8〜

 走っていったせいで、教室に戻ってくるころにはかなり汗をかいてしまって
いた。
 その分、股間の状態は落ち着いたけどね……。
「おかえり」
 自分の席に戻っていた柳さんが笑顔を見せた。
「うん、ただいま。はい、これ……」
 自分の分のアクエリアスをビニール袋から抜いて、柳さんに渡した。
「ありがとう。助かったわ」
 柳さんはトイレットペーパーでぐるぐる巻きにされた汚れ物を袋の中へ放り
込んで、袋の口を結んだ。彼女はずいぶんと平静を取り戻しているように見え
る。
「ふはぁ……」
 しっかし、外はまだ暑かった。
 僕はさっそくペットボトルを開け、スポーツ飲料を喉に流し込む。
 ぴりりっとした痛みが走り、喉がカラカラに乾いていたことに気付いた。緊
張と興奮のせいだ。
 ……僕のほうはまだ平静とは言えないなぁ。
 快楽を得るための行為の余韻が、教室に残っている気がする。柳さんの机の
上にある袋に、その名残が残っているんだから当然なんだけどさ。
 柳さんもペットボトルへ口をつけた。
 その唇や喉元を見て、僕はちょっとドキリとする。
 色っぽいなぁ……と思って。
「……はぁ……」
 柳さんは3分の1くらいを一気に飲み干し、安堵の息を吐いた。
 静かな教室に、ちゃぷんっ、とペットボトルの中の液体が音を立てる。
 …………。
 沈黙。
 なに話せばいいのかな、こういうときって。
 僕はさ、普段は沈黙でも気まずくならないタイプなんだよね。黙ってるとき
は考えごとしてるから、平気なわけ。そーいえば、相性いいとかって話してた
から、柳さんも考えごとしてるのかも。
 でも、今回に限り、黙ってると、頭に浮かんでくるのはさっきの行為の情景
ばかり。だから、できれば他のことに集中してたかったりするんだけど。
 ……ま、いっか。
 しばらく、液体が揺れる音だけが教室に響いていた。
 僕らのペットボトルが残り3分の1くらいになったところで、柳さんが口を
開く。 
「私たち、付き合うってことでいいの?」
 柳さんはあらためて訊いてくる。
 僕は黙って頷いた。
「私、きっと、もっと色々するし、させると思う……それでもいい?」
「うん。いまのうちに言っておくのは、フェアかなって思う。ちょっと、怖い
けど」
「嫌になったら、いつでもいいから」
「……なにが?」
「別れようって言ってくれたら、別れる」
「そっか。クーリングオフみたいだね」
「そうね。でも8日間とか、期限は限ってないよ」
「うん。じゃあ、判を押した離婚届を結婚前にもらってる、みたいな」
「そんな話も聞くね」
 柳さんは頷きながら、携帯電話を取りだした。
「携帯番号とアドレス、教えてくれる?」
「……あ、わかった」
 それが交際の通過儀式のように、僕らは番号とアドレスを交換し合った。
 ……まあ、今どきは、番号もアドレスも知らない相手を好きになるなんてこ
と、少ないんだろうけど。普通は、友達として交換してるもんなぁ。
「ん、ありがと」
 お互いに届くことを確かめてから、柳さんは携帯をしまう。
 それから、コンビニ袋が入っていると思われる鞄を持ち、手を振った。
「じゃあ、また明日ね」
「あ、うん。ばいばい……」
 僕は教室から出ていく柳さんを見送る。
 教室は柳さんが来る前に戻った。
 射してくる日光が、ちょっと赤みを帯びてはいるけど。
「一緒に帰ったりとかするもんじゃないのかなぁ……?」
 僕はなんとなくの疑問に首を捻る。
 あんなことした後だし、普通に帰りづらいといえば、そうなんだけど。
「ま、いっか……」
 そろそろ部活動中の生徒以外の下校の時間だ。
 僕も鞄を持って、教室を出る。
 なんにしろ、そんなこんなで、僕らのあまり清くない交際が始まった……。




ホーム プロローグへ 第二章へ




無料エロ動画新作アダルトDVDが10円〜出会い輪姦無料アダルト動画
画像掲示板レンタルベクターアダルト無料ホームページ無料アップローダ